J100917418
J100917419
音の話は内容が濃いので3ページにまたがります。ここでは 音の知識に関するイントロダクション と 機材紹介 をして、このあとのページで レコーディング と ミキシング の解説をします。
【 音 】 その1 - 録音・音響機材 -
音は映像より大変 / すべては映像の「音トラック」のため / 必要な機材 / 機材のおおまかな接続図 / 電子鍵盤楽器について / MIDIとは? / エレピはカシオですが? / エレピのアウトプットは2種類 / マイク / ミキサー / かけ録りとは? / 音量? レベル? / コンプレッサー / コンプとミキサーの接続 / ヘッドフォンとスピーカーについて / ヘッドフォン / モニター・スピーカー / [ひと休憩] 昔話と、身の上話を少し / オーディオ/MIDIインターフェイス / 音楽ソフト(シーケンスソフト) / 音楽ソフト(プラグイン)
音は映像より大変
まずはじめに、音の技術解説は、映像やWEBに比べて、ずっと難解で込み入った話が頻出することを断っておかなければならない。映像やWEBについては、本やWEBで調べればある程度わかった気になるし、実際、僕がやっているように、ある程度のことはやれる。しかしながら、ここで紹介する音の技術について十分に理解をして実践するには、ある程度の経験が必要だ。なぜなら、音にまつわる経験ができるのは、耳しかないからだ。いくら本を読んでもWEBで調べても、耳で実体験として音の世界に触れない限り、音のことはわからない。人間が知覚するすべての情報のうち9割は目によるものだ、という話があるけど、音は、その人間が知覚のほとんどを頼っている視覚による認知ができないから、音は映像に比べて技術の習得に時間がかかるものだ と僕は思っている。
映像をやっていらっしゃる方が眉をしかめそうな書き方ですが、大きく的を外した表現ではないと思ってます。もちろん僕が音をひいき目に見ている、っていうのもありますが。
すべては映像の 「音トラック」 のため
【映像】 編 の最後のほう で 「2mix (ツーミックス)」 っていう言葉が出てきたけど、この 【音】 編 で解説するのはズバリその 2mix の作り方。手短に説明するなら、いまから解説するのは、 「ピアノと歌の音色や音量を調整しながら混ぜて(=ミキシング)、映像編集の音トラックに使うためのひとつの音声ファイル [2mix] を作る作業だ」 ということになる。
その作業 (=ミックス・ダウン) が完了するまでには、「レコーディング」 と 「ミキシング」 という大きな2つの工程がある。でも両者の境目がとても曖昧なので、ここでは作業を時間軸に沿って順に追って解説していくことにする。
もちろんだけど、ここでは演奏の技術については一切触れません。あくまでもエンジニア的な立場から「どうやっていい音を作るか」ということについてだけ解説します。
演奏 (ピアノの弾き方、歌い方) についての解説はこちら。 [ 弾き語るには? ]
必要な機材
レコーディング と ミキシング の話の前に、まず使用している機材について解説しておく。
詳しい方は読み飛ばしてください。
- 電子鍵盤楽器
- マイク
- ミキサー
- コンプレッサー
- ヘッドフォン/スピーカー
- オーディオ/MIDIインターフェイス
- 音楽ソフト (シーケンスソフト+プラグイン)
昔 (学生の頃) はもっと機材持ちで、とりあえず数があればそれで満足してた。全然使わないような機材も、持っているだけで嬉しかった。でも、歳とともに嗜好は変わるもので、最近は 「いかに少ない機材で、しかもお金をかけずにいいものを作るか」 ということをひたすら追求しています。だから、機材は最小限のものしか持っていません。
上にリストアップしたものについてはこのあと順番に解説するとして、この写真に写っているもので、映像編で解説をしてなくて、しかも音にも関係ないものがひとつある。それは 「椅子」。
ピアノと言えば長方形のツルツルした椅子だけど、僕はこのドラム用の丸椅子が好きで使っている。場所をあまり取らないっていうのもあるけど、何と言っても見た目。「ピアノ難民を救え!」でこの椅子が映ることは稀だと思うけど、映像的にどうこうではなく、やっぱり弾いていて気分が違う。クラシックの長椅子に座っているとどうもショパンとかバッハな気分になってしまう (?)んだけど、この丸椅子だと Ben Folds な気分になれてテンションが上がる。実際、ライブのステージでこの丸椅子を使うミュージシャンは多い。Ben Folds も アンジェラ・アキ も スキマスイッチの常田さんもそう。ガツっとピアノを弾く人はみんな (?) 丸椅子フリークだ。
ちなみに、メーカーはTAMAで、5000円くらいで買える。
ちなみに、正式にはドラム用椅子ではなく 「ドラム・スローン」 っていうらしいです。
ちなみに、スローンは英語で 「throne」 で、「王座、玉座」 っていう意味。要するに、ドラムはバンドのKINGである、と。少し遠慮気味に解釈しても、バンドを引っ張ってるのはオレ様だぞ、ということみたいです。
「ちなみに、」を連発してるとスペースシャワーTVの「音知連」が思い浮かぶのが何となく悲しい。
機材のおおまかな接続図
さて、おちゃらけた内容はここまでにして、ここから 【音】 編 の本番に突入する。まずは全体像を把握してもらうため、今から紹介する機材がどういう風に繋がっているかを図示する。音響機材についてまったく知識のない人にはさっぱり 「?」 だと思うけど、この図はあとで録音とミキシングの話をするときにも登場するので、このページを最後まで読んだあとでもう一度見れば、「ほー、なるほど」 と納得がいく・・・はずです。
細かいことはおいておくとして、ここでは、青い線が 「音 (オーディオ) 」 の通るライン、オレンジがパソコンでお馴染みのUSB、紫がMIDIのライン・・・と、大まかに3系統のケーブルが入り混じってるってことと、機材の中心にいるのが 「ミキサー」 で、パソコンとその他の機材を接続する部分に 「オーディオ/MIDIインターフェイス」 っていうややこしい名前の機材がいるっていうことを何となく覚えておいていただければOKです。
ただし、一部結線を省略しているところがあります。
ではさっそく各機材を順番に見ていくことにする。
電子鍵盤楽器について
動画を見てのとおり、「ピアノ難民を救え!」 で僕が使う楽器はピアノだけ。正確には電子ピアノなんだけど、響きが格好悪いから エレピ (=エレクトリック・ピアノ) と呼ぶので慣れて欲しい。と、言ったそばからナンだけど、別に使う楽器はエレピでなくてもいい。ここで必要なのはMIDIデータを出力できる電子鍵盤楽器だ。MIDIについてはこのあとすぐに解説するから、ここは 「=シンセサイザー」 だと思っていただいて構わない。
以後、シンセサイザーは 「シンセ」 と略します。 ※【音】 編 は略語が頻出することをここで断っておきます。
じゃあ生ピアノはダメなんですか? って思う人もいるだろうけど、残念ながら、ここでは生ピアノの録音については触れない。もちろん生ピアノでも同じものは作れるけど、録音作業が大きく違ってくるので、どこかでまた機会があれば・・・ということでご勘弁を。
ちなみに、生ピアノ=アコースティック・ピアノで、「アコピ」 と略します。
MIDIとは?
MIDIが何の略かなんてことはこの際どうでもいいので割愛して、MIDIなんて聞いたことも見たこともないっていう人を対象に、ちょっと違った切り口でMIDIについて解説。
・・・と、子供向けの絵本みたいになってしまったけど、このアシモ君のような役割をするのがMIDIで、天才プログラマ君が組んだプログラムがMIDIデータと呼ばれるものだ。つまり、MIDIとは どういう風に演奏するか、という演奏データ だということ。この例では、アシモ君にプログラムされた 「別れの曲のMIDIデータ」 でピアノとオルガンを演奏したように (オルガンは失敗だったけど)、同じ演奏データを使って、色々な楽器を鳴らすことができるのがMIDIだ、ということになる。
さて、そのMIDIデータと常にセットで必要になるのが、「楽器音データ」 だ。アシモ君がMIDIデータの例えなら、アシモ君が弾いたピアノとオルガンがこの 「楽器音データ」 の例えだってことになる。アナログ写真に対してデジタル写真があるように、生のピアノ音があれば、それをデジタル化した 「デジタルのピアノの音」 が存在するというわけだ。こういう風に、デジタルミュージックの世界では、デジタルの楽器音データをMIDIデータが鳴らすことで、楽器の演奏をシミュレーションする というのがとても重要な表現手法なのだ。
「楽器音データ」 という表現は一般的ではないけど、わかりやすいので使っています。よそでは「なにそれ」と言われるので要注意。そのデジタル化した楽器音をMIDIで操作できるようにしたものが 「音源ソフト」 と呼ばれるもので、こちらは一般的な呼称です。このページのずっと後で登場します。
ここ数年で (2007年現在)、この 「楽器音データ+MIDIデータ」 の組み合わせによって、世界中のありとあらゆる楽器をデジタルでかなり忠実に再現できるようになってきた。MIDIデータの主な仕様はMIDIが登場した1980年頃から変わっていないんだけど、楽器音データのクオリティは年々上がってきていて、それはひとえにパソコンの性能が上がったおかげなのだ。MIDIについての難しい話はこれ以上しないけど、ここでMIDIに触れたのは、 「デジタルの世界では、MIDIという便利なものを使って、あとでいくらでも楽器の音を変えられる」 っていうことを大前提として押さえてもらうためだった。
アシモ君をひょいっと持ち上げて、オルガンの前に座らせる要領です。
実際、「ピアノ難民を救え!」 で鳴っているピアノの音は、グランドピアノの音をデジタルで再現したピアノ音源ソフトのもの。だから、写真に写っているカシオの Privia からは間違ってもこんなにいい音は出ないことを先に断っておきます。
エレピはカシオですが?
まるで「カシオのエレピはしょぼい」と言わんばかりの前振りだったけど、せっかく名前が出たのでここでうちのエレピを紹介しておく。実は、エレピを買うときに僕自身一番驚いたのは、「カシオのエレピ、なかなかやるなっ!」 っていうことだった。正直に言って、これは衝撃だった。
僕はこれまでシンセを何台か持っていたことはあったけど、エレピを買うのは実は初めてだった。で、東京に行ったときに知ってる限りの楽器屋を回ってエレピというエレピを片っ端から弾いたけど、予算範囲内のものでダントツ僕の好みだったのが、この カシオ Privia PX-200 だった。2007年3月頃、同ジャンル (エレピ、もしくはステージ・ピアノ) ではローランドの FP-7 や、ヤマハの CP33 がよく店頭においてあった。実際、僕はどっちも悪くないとは思った。価格も14万円前後でまずまずだったし。でも、ときどき見かけるカシオの Priviaシリーズ をぽろぽろっと弾いた感じがどうも気になった。正直に言うけど、僕はそれまで、カシオをバカにしていた。楽器メーカーとしては、ローランドやヤマハやコルグは一流で、カシオは二流っていう思い込みがあったからだ。でも、一応弾くかな~っていう感じでちょろっと弾いてみて、「ん?」 と思うことが何度かあった。はじめは、「へえー、カシオもまあまあやるなー」 くらいのものだった。でも、何軒も楽器屋を回ってるうちに、本気でカシオのエレピのことが気になりだして、最終的には7万円 (安っ!) で Privia PX-200 を買うことになる。14万円のローランドもヤマハも、見た目がどうもおもちゃっぽいこのカシオのエレピにはなぜかかなわなかった。あえて言えば決め手は鍵盤の重さだったのかなぁとは思うけど、そんなことよりも、何となく惹かれた、というほうが正確だ。だから、誰にでも 「カシオはいいぞ~」 と言うつもりはない。でも、「やっぱエレピのタッチはヤマハでしょー」 って盲目的に信じてる人は、一度目隠しでもして楽器屋のエレピを触ってみることをオススメする。鍵盤のタッチの好みはそれこそ十人十色で、どれが自分にハマるかは弾いてみるまではわからないのだ。
一番いいのは秋葉原のラオックスMUSICVOX (書泉ブックタワーの斜め向かい) です。7Fだったかな?にエレピがわっさーと置いてあるフロアがあります。たぶん日本一エレピがたくさん並んでるフロアだと思います。
電子ピアノ 「カシオ Privia PX-200」 はこちらで購入できます。 [ メーカーWEBサイト ]
ここでひとつ注意しておいて欲しいのが、僕のエレピの判断材料に 「音色の良し悪し」 はまったく入ってないこと。その一番の理由は、さっきも書いたように、あとで別のピアノの音に差し替えることがわかってたから。それから、「エレピの音色なんて、大して違いがない」 という経験があるから。後者には色々と意見があるだろうからここはスルーするけど、エレピを選ぶときに重要なのは、音色ではなくて鍵盤のタッチだ っていうことは断言しておきます。
エレピのアウトプットは2種類
アウトプット=出力。つまり、エレピから出るモノが2種類あるってことだ。それはさきほどのMIDIデータと、音。エレピを弾いてMIDIデータを記録し、あとで別のゴージャスなピアノの音に差し替える・・・って言ったばかりだけど、エレピが出す素の音もちゃんと使うのだ。実は、録音しているときに僕がヘッドフォンで聞いているのは、ゴージャスなピアノ音源ソフトの音ではなく、エレピのしょぼい音なのだ。
実際はそんなにしょぼくはないですよ。比較される対象が悪い(良過ぎる)だけです。
実を言うと、エレピの音を差し替えるのはレコーディングが終わった後で、レコーディングの最中にはゴージャスなピアノの音は聴けない。なぜかというと、 「パソコンが音を差し替える処理をするのに、ほんのわずかに時間がかかるから」 だ。その時間は、数十ミリ秒。つまり、僕がエレピを弾いて、その音をすぐにピアノ音源ソフトに変換して欲しくても、ゴージャスな音が出てくるのが数十ミリ秒遅れるわけだ。その差がどのくらいかというと、とても気持ち悪くて弾けないくらいのズレ なのだ。この問題は、これからの技術進歩が解決してくれるはずだけど、現段階では、このクラスの音源ソフトの音データを、演奏のスピードに合うくらいの速さでリアルタイムに呼び出すことはできない。プロの現場ではどうか知らないけど、少なくとも、僕の環境ではまだ無理だ。
Core2Duo 2.4GHz + メモリ2GB なので音楽をやるにはぼちぼち十分なスペックだと思いますが、まだパワー不足みたいです。
そんなわけで、録音しているときには、カシオ PX-200 の音をミキサー経由で出力したものを聴きながら歌っている、というわけなのだ。
次はマイク。
マイク
まず、マイクには大きく分けて 「ダイナミック・マイク」 と 「コンデンサー・マイク」 の2種類がある。あんまりいい加減なことは書けないんだけど、大雑把に言えば、ダイナミックは手荒に使っても大丈夫な代わりに、音を拾える範囲がとても狭くて、マイクの前でしゃべらないとダメなのに対し、コンデンサーはとても繊細で、湿気や衝撃に弱くて壊れやすい代わりに、周囲のほんのわずかな音まで拾ってくれる、といった違いがある。構造的な違いまではうまく説明できないんだけど、前者がライブで使われ、後者がスタジオ内でのレコーディングに使われる、という説明で、何となくその用途がわかってもらえるはずだ。屋外のライブはもちろん、ライブハウスでボーカルが持ってるのは99.9%ダイナミック。学校の体育館で先生が使うのもダイナミック。カラオケにあるのもダイナミック。一方、ラジオの収録に使うのはコンデンサー。クラシック・ホールでオーケストラの録音をするために天井からぶら下がっているのはコンデンサー。ミュージシャンがスタジオ内でヘッドフォンをして両目をつぶりながら歌っているのはコンデンサー。・・・というわけだ。
でも、ダイナミック・マイクも壊れるときは壊れます。2007年8月に、我が故郷・香川県まんのう町で開催された四国唯一のロックフェスティバル「モンスター・バッシュ」で、CHARA が歌ってる最中にマイク (たぶんこのあと登場するSM-58) を落として音が出なくなって、コーラス用に立てていたマイクを使って続きを歌った・・・なんてこともあります。マイクは種類を問わず大切に扱いましょう。叩くのもダメ、息を 「フッ」 と吹きかけてマイクチェックするのもダメです。理由は、マイクは小さな音を拾うデリケートな器材だから。
で、「ピアノ難民を救え!」 で使っているのはコンデンサー・マイクなんだけど、うちのレコーディング環境なら、ダイナミックを使っても構わないかもしれない。なぜならノイズが多いから。本来ならコンデンサー・マイクっていうのは、雑音がまったく遮断された環境、もしくは、周囲の細かい音まで拾いたいときに使うべきで、うちみたいに、すぐ近くでPCはウンウンいってるわ、夏は思いっきりクーラーかけるわ、外を走る車の音は聞こえるわ・・・っていう環境では、せっかくのコンデンサー・マイクの威力が半減するから使うべきではないのかもしれない。でも、ダイナミックとコンデンサーの両方を試してみた結果、やっぱりコンデンサーのほうが音がよかったから採用した。
当然と言えば当然です。
ちなみに、コンデンサー・マイクは 「RODE NT3」 で、採用されなかったダイナミックは 「SHURE SM-58 LCE」。価格はNT3が16000円くらいで、SM-58が12000円くらい。プロが使うコンデンサー・マイクはもうちょっと高級だけど、 宅録 ( [たくろく] = 自宅録音 ) ならNT3の性能で十分だと僕は思う。SM-58は「ゴッパチ」という愛称で呼ばれるプロ御用達シリーズで、スガシカオ も 椎名林檎 も Ben Fold Five もみんな(?)このマイクを使ってライブをやったことが必ず1回はある。そう思えば、プロ仕様のマイクにしては結構安いと思うんだけど・・・どうでしょうね。
コンデンサー・マイク 「RODE NT3」 はこちらで購入できます。
ダイナミック・マイク 「SHURE SM-58 LCE」 はこちらで購入できます。 [ メーカーWEBサイト ]
コンデンサー・マイクにはファンタム電源と呼ばれる特殊な電源が必要なんだけど、NT3は電池でそれを供給できるレアな製品で、ミキサーがなくてもあちこちで使えるメリットがある。ただ、ボディの長さが少々長めで、もう少し短ければ上カメに映り込まないのに・・・と、買ってから気がついた。
ミキサー
その名のとおり、「音を混ぜる機械」。放送室にある 「ツマミのたくさん並んだ巨大な卓」 を見たことがあると思うけど、ああいった業務用の大きなものから、弁当箱くらいの小さなものまでミキサーにも色々ある。主な役割は 複数の楽器やマイクの音をひとつにまとめる こと。例えば、ラジカセにマイクをひとつ繋いで、フォーク・ギターを弾きながら歌っているのを録ろうとすると、あんまりギターにマイクを近づけすぎるとギターの音が大きすぎるし、かといってあんまり離すと今度は歌っている声が小さくなってしまう・・・そういうときに、ギター用と歌用にマイクを別々に立てて、それをミキサーでひとつにまとめて、そこで音量のバランスをとりつつ、ミキサーの出力をラジカセに繋いで録音する・・・というような使い方をする。
ラジカセで録音する人なんてもうほとんどいないんだろうなぁ。昔はラジカセひとつであれこれ工夫して録音したもんだけど。
僕が使っているのは BEHRINGER XENYX 802 で、8500円くらいで買えるエントリーモデルだ。とはいえ、コストパフォーマンス命のドイツ楽器メーカー・BEHRINGER (ベリンガー)。安くても結構使えるので僕は大好きで昔からよくべリンガーの製品を使っている。放送室にあるようなものとは違って、前後にスライドするツマミ (=フェーダー) がないけど、それに代わる 「回すツマミ」 がちゃんとついてる。省スペースのためにスライドするのをあきらめて回すことにした、というわけだ。
ミキサー 「BEHRINGER XENYX 802」 はこちらで購入できます。 [ メーカーWEBサイト ]
あとで登場するけど、コンプレッサーとモニター・スピーカーもべリンガー。ベリンガーを2台以上持ってるやつはヨゴレ的な空気はありますが(笑)、んなことは気にしません。ただし、ベリンガーなら何でも安くて品質がいい、というのも思い込みなので、しっかり下調べしてから買いましょう。
さて、ミキサーの役割はこれでわかったことにして、少々込み入った話を。ミキサーには接続した各機材の音量のバランスをとるだけではなく、それぞれの音質を調整する機能がある。ミキサーによって細かいところは全然違うけど、代表的なものは イコライザー と呼ばれる音質の調整機能(略して EQ [イーキュー] )で、簡単に言えば、音に含まれる高音成分と低音成分のバランスを調整するための機能だ。高音/低音といっても、その段階が2つしかないものから、5個あるものや、どのくらいの周波数帯(音の高低を示す数値)をターゲットにするかを微調整できるものまで色々ある。
このBEHRINGERのミキサーの場合は、白い四角で囲った3つのツマミがEQで、上から高音域/中音域/低音域 [ハイ/ミドル/ロー] の音量を増減することができる。もちろん接続した機材ごとに(この場合はマイクとエレピ)それぞれ調整できるようになっている。
他のツマミの役割については、あとの話の中で出てくるものはありますが、このミキサーのすべての機能を解説するわけではありません。
ツマミの位置を見ると、マイクのEQのうち低音のツマミが12時の方向から左に振れているのがわかると思うけど、EQの場合は12時の位置がプラスマイナスゼロ=フラットな状態で、この場合は、「マイク (=歌) は低音を少しカット気味にする」 ことを意味している。同様に、エレピは 「高音と中音域を増やし、低音をカットしている」 状態だ。実はエレピは少し極端な設定になってるんだけど、これはヘッドフォンを聞きながらピアノを弾いているときの設定で、スピーカーから聞くときにはもう少しフラットな設定に戻している。こういう風に、状況に応じてちょこちょこツマミはいじるので、「エレピってのは低音カットで上はブーストだ~!」 っていう乱暴な話ではないので注意。ただし、一般的な話として、ボーカルの録音をするときには、こういう風にあらかじめ低音をカット (=ロー・カット) した状態で録音することがよくある。理由についてはあとで触れるとして、ここで大事なのは、「あとの作業でできるとしても、いまできることがあるなら、いまやっておく」こと、つまり 「かけ録り」 が、録音作業においては重要だっていうことだ。
かけ録りとは?
イキナリ 「?」 な単語を登場させてしまったけど、この辺から話はややこしい方向へ進んでいくので、できるだけうまくステップを踏みながら説明していきたい。
この 【技術解説】 は全編にわたって 「内容は難しいけど誰にでもわかる」 をモットーにしているので、基礎知識のある方は、章のタイトルを見て適当に読み飛ばしてください。先はまだまだ長いです。
まずこの話の大前提として、「映像や音の編集作業においては、ある一つの作業を、どのタイミングでもやれる柔軟性がある」 ということを言っておかなければならない。デジタルでもアナログでも同じようなことが言えるんだけど、デジタル環境における柔軟性はアナログの比ではないのでとくに気をつけなければならない。「気をつける」 ということは、それがただ便利だというわけではなくて、その柔軟さが場合によっては弊害になることが多々あるということを意味している。
実は具体的な例が 【映像】 編 で一度出てきてるんだけど、映像のホワイトバランス のところで、「編集のときにある程度は色調整できるとはいえ、やはりホワイトはしっかり取って、フラットな色味になるように撮影するのが基本」 と書いた。これがまさに、「あとでやろうと思えばできるけど、できることは今やっておくべきだ」 といういい例で、これと同じような話が、これから音の話の中にも頻繁に出てくる。
「あとでやろうと思うな! 今やれ!」 ・・・選挙ポスターかビジネス書のキャッチコピーみたいですが。
さて、さっきの 「ミキサー」 のところで出た 「ボーカルにはロー・カットをかけて録る」 に話を戻すと、例の音域ごとに音量を調整する機能、EQ (念のため、EQはイコライザーの略。もう書きません) をかける作業は、2mixが出来上がる最後の最後まで、何度も登場する非常に重要な編集工程で、このミキサーのツマミを調整してかけるEQは、すべてのEQのうちの一番はじめのステップなのだ。だから、ここでかけられるものは今かけておく。いまやれる範囲でかけておく。それが基本。こうやって、EQをかけた状態でボーカルを録音する (=フラットな状態で録音しない) ことを 「かけ録り」 と呼んでいる、というわけだ。
かけるのはEQに限らず、すべての効果=エフェクトについてあてはまりますが、まずここではEQだけを例にとって説明しました。次の章でもうひとつの 「かけ録り」 が登場します。
この話の真意を十分に伝えるのはとても難しくて、いくらここで書いても 「そんなの、あとでやれるなら後回しにしてもいいのでは?」 と思う人が大半だと思うけど、それを否定する理由をここで並べてもまだ十分に伝わらないので、「あとでやれるなら今やるのが基本だ」 と、まずは断定しておいて、話を先に進めることにする。
かけ録りは大事ですが、やりすぎは禁物です。やりすぎたら、あとで直せません。実は、EQはまたあとでかけるのでここは軽くかけておきましょう。 ・・・ほなかけへんかったらええやん! って感じですが、まあまあここはそういうことで。
音量? レベル?
さて、コンプレッサーの説明の前に、この辺で(そろそろ)断っていかなければならないことがある。それはさっきから適当に使ってきた 「音量」 という言葉だ。音響技術の話をするときには、通常 「レベル」 という言葉を使う。レベルと音量は厳密には全然意味の違う言葉なので、これを混同することはあまりよろしくない。ということで、以後、「音の強さ」 をあらわすときには 「レベル」 を使います。
唐突にすいません。
ちなみに単位は 「db(デシベル)」 なんだけど、これはとりあえずあまり気にしなくていい。基準が 0db [ゼロデシベル] で、プラスとマイナス両方の値をとるから、音がまったく聞こえない状態がゼロデシベルではない というのをとりあえず押さえておいてください。
高速道路の高架下が95デシベルとか、近所の迷惑バアさんがフライパンを叩いているのが90デシベルとか、ときどき見かける単位ですが、実はさっきのデシベルとこのバアさんデシベルとは、中身がビミョーに違うんです。非常にややこしい話なので、これ以上は触れません。ちなみに、音量とボリュームは同じ意味として使って問題ありません。
コンプレッサー
たぶんこれが一番聞きなれない単語なんじゃないかと思う。コンプレッサー。以後 「コンプ」 と略します。見たことがない人も多いと思うのでまずは写真を。
これは先ほどのミキサーと同じベリンガーの MDX2600 で、17000円くらいで買える、これまたエントリーモデルながらなかなか高機能で使えるコンプ。これに限らず、宅録をするならコンプは必需品です。
コンプレッサー 「BEHRINGER MDX2600」 はこちらで購入できます。 [ メーカーWEBサイト ]
普通は専用のラックに収めるんだけど、うちでは場所がないのとラックなんて大層なものを使う程じゃなないってことで、スピーカーの横にタテにして置いてある。ラックを買うのをケチってるんです、要するに。
まずこの機械が何をするかというと、一言で言うなら 「音のレベルを揃える」 。コンプレッサーは英語で圧縮するという意味だから、文字通り 「音を圧縮して粒を揃える」 ようなニュアンスで捉えればわかりやすいかもしれない。で、このコンプは、ボーカルにかける (=かけ録りする) ために使っているんだけど、実はコンプは通常ほとんどすべての楽器に直接的または間接的にかけるもので、市販している音楽CDの中に、コンプが一切かかっていないものは皆無に近い。あるとすれば、「自然に、そのままに、無加工で録りました」 的なコンセプトでやってる音源くらいだと思う。それくらい、このコンプっていうのはさっきのEQと並んで、音の編集作業には欠かせないものだ。では、コンプをかけるっていうのが実際にどういう効果があるかというと、最初に 「レベルを揃える」 と書いたけど、具体的には 「大きい音を抑えて (圧縮して)、小さい音とのレベルの差を小さくする」 効果がある。
これでもまだ予備知識のない人には 「?」 だと思うからもう少し卑近な例を挙げると、テレビを見ていて感じたことのある人が多いと思うのが、「CMになると突然音が大きくなる」 とか 「NHKは音が小さい」 といった現象。これは別に勘違いではなくて実際にそうなのだ。でも、そのわずかな音の違いを、普通の人なら感じることができる。で、何で気になるかっていうと、普通の番組で聞いている 「いつもの音量」 が基準にあって、CMやNHKの音量がそこから外れているからだ。こんな風に、 人間の耳にとって、聞いている音のレベルがある程度揃っていることはとても大事なこと なのだ。以上の話を踏まえた上で、ボーカルを録音するときのことを考えてみると、「1曲を歌う間で、声の大きさは色々と変わるなぁ・・・Aメロはささやくように小さく、んで、サビは大きく・・・あ、ラストはシャウト!するなぁ・・・でも、あんまり声の大きさがバラバラだったら聴いてるほうは聴きにくいだろうな・・・」 なんていう話がピンとくるんじゃないかと思う。この 「(曲中の) 場所によって大きな差のあるレベルをある程度の範囲に絞り込む」 のが、コンプの役割だというわけだ。具体的には、さっきも書いたように、大きな音があまり出過ぎないように抑えることで、全体のレベルを揃えてくれる。
若干適切ではない例を挙げてしまいましたが、お分かりいただいたということで先に進みます。
また、コンプレッサーは、おまけとしてコンプ以外の色々な機能がついた複合機として作られていることが多い。このBEHRINGER MDX2600 も、一応体裁はコンプだけど、ゲート、エキスパンダー、エンハンサー、リミッター、ディエッサー、チューブエミュレータ(!)といった、それぞれでちゃんとひとつの音声機材として成立するような機能が付属している。だから、これとミキサーについてるEQとを合わせれば、録音のための最低限の機能は全部揃っていると言える。
各機能については次の実践編で解説します。それにしてもほんと、安くていい録音機材が買える時代になったと思う。ここで紹介した ミキサー+コンプ+マイク+パソコンがあれば、音質に限って言えば、セミプロレベルの音楽は十分作れます。あとは練習しろってことですね。
コンプとミキサーの接続
深入りはしないけど、接続図に登場した以上、一応説明しておかなければならないのが、コンプとミキサーを接続するときに登場する 「バス」 という言葉。感じとしては、「サブ」のような意味で、メインとは別系統で音を入出力するために使うライン/端子のこと。図がわかりやすいと思うので、冒頭の接続図の一部を使って解説するとこうなる。
ピンクの線は、マイクの音がミキサーに入って、そこから直接モニターに抜けていくライン。この場合は、マイクで拾った音はコンプを通らないので当然コンプレッサーの効果はかからない。一方、青い線は、ミキサーに入ったマイクの音が、バスを通ってコンプに入り、コンプレッサーが効いた音を再びミキサーに戻して、それをモニターに出力する・・・というラインを示している。こういう風に、コンプだけではなく、別の機材 (主にエフェクター) に音をいったん預け、それをあとで戻してもらうときに使うのがバス、というわけ。
ここではわかりやすいように出力先の一例としてモニターを示しています。また、バスには他にも色々と用途がありますが、ここでは触れません。
ミキサーによってはバスがないものもあるし、バスが10系統以上あるものあり、だいたいミキサーのサイズに比例して増えるものだ。バスはあればあるだけ便利だけど、宅録でちまちまやるときにはひとつあれば十分っていうこともあるので、用途に合わせてミキサーは選ぶ必要がある。それから、図ではわかりやすいかなと思って 「バス出力/入力」 と書いたけど、普通は 「バス・センド」 と 「バス・リターン」 と呼び、 日本語でバス送り/戻しなんて言うこともある。バスに一旦音を送っておいて、それをあとで戻してもらう・・・というようなニュアンスで取れば、とても的確な呼称であることがわかる。
実はこのミキサーには、「バス」 ではなく 「FX」 と書いてあるけど同じ意味合いです。FXセンド、FXリターンっていう風に使います。
ちなみに、コンプのように、もとの音に特殊効果を加える機能/器材のことを エフェクター という。ミキサーのところで登場したEQも広義のエフェクター。ギタリストがよくカチカチ踏んでいる、床に転がっている鉄の塊もエフェクター。楽器を問わず、音楽制作には欠かせないものだ。
あとで、パソコン上で動くデジタルのエフェクター(エフェクター・ソフト)も登場します。
ヘッドフォンとスピーカーについて
自分の弾いているピアノの音や歌っている声を聴くには、このどちらかが必要だ。ここで登場するスピーカーは、音響用語では 「モニタースピーカー」 と呼ばれるもので、モニター と略すことが多い。パソコンのモニターと間違えそうだけど、一応ここでは慣例にならってモニターと呼ぶことにする。
まず、両者をどう使い分けるかという話から始めると、ヘッドフォンは厳密な音のチェックをするとき (周りの雑音を遮断してくれるから) と、レコーディングのときに使う。レコーディング中は歌は歌だけで録るから、ピアノの音がスピーカーから流れているとその音をマイクが拾ってしまってNG。だからヘッドフォンでピアノの音+自分の声を聴きながら歌っているというわけだ。
僕がヘッドフォンをしているのは変装目的ではありません。
一方、スピーカーを使うのはヘッドフォンを使わないとき・・・なんだけど、どういうときに積極的に使うかというと、一番大事なのはミックスダウンのとき。ミックスダウンの作業では、全体の音のバランスや音質をチェックして、完成品としての2mixを作り上げる。そのときに最終的にGOサインを出すのは、ヘッドフォンではなく、モニターを使っているときなのだ。詳しい話は後で出てくるけど、ここではまず、最終確認はモニターで行うってことを押さえておいて欲しい。
ヘッドフォン
ではヘッドフォンを紹介する。僕が使っているのは audio-technica [オーディオ・テクニカ] の ATH-AD400 で、約6500円。梅田ヨドバシカメラに大量においてあるヘッドフォンの中から (試聴できるものだけでも軽く100種類はあった) 、価格+性能+軽さで選んだ。ヘッドフォンやイヤフォンの性能なんて、同じ価格帯のものなら好みで選ぶしかないものだとは思うけど、それでも選び方の基本はある。まず長時間つけても痛くならないこと。店頭で1時間もヘッドフォンをつけているわけにはいかないけど、見分け方は簡単で、 耳 (正確には 外耳) に接触した感触ができるだけ弱いもの を選ぶといい。ヘッドフォンをしていて耳が痛くなるのは、耳が圧迫されるのが一番の理由だから。この ATH-AD400 は、 中がドーム状に空いているエアータイプ(っていうのかな?)で、僕の耳にはほとんど当たらない。それから、ヘッドフォンのパッドが挟む力(バネ?)が弱いほうがいい。パッドを耳に密着させるためにバネがやたら強いやつがあるけど、そういうのは絶対やめたほうがいい。
いくらドームがしっかりしていても、バネが弱くても、2、3時間連続でつけているとやっぱり何となく痛くなってきます。そういうときは外耳だけではなく、鼓膜もかなり疲れているので、いったん休憩しましょう。あと、耳に引っ掛けるタイプのイヤフォンがありますが、あれってすぐ耳が痛くなりません? あれが平気な人は、たぶんどんなヘッドフォンでも大丈夫だと思います。
もうひとつ大事なのは、低音が出ている = 良いヘッドフォン ってわけではないことをちゃんとわかっておくこと。低音がとにかく好きで低音が出てれば出てるほどいいって人はともかく、ヘッドフォンの良し悪しを決めるひとつの指標に、 「フラットかどうか」 というのがある。フラットっていうのは、偏っていないっていう意味で、要するに低音だけが出すぎているとか、高音がやたらキンキンするとか、そういう癖がないことを指す。ヘッドフォンだけでなく、イヤフォンやスピーカー類すべてに共通して言えるのは、 誇張せず、ありのままを表現してくれるものは良い ということ。これは非常に大事なことだ。
とは言え、好きなものが好き!で通る趣味の世界では、フラットなものは取り柄がなくて物足りないのも事実。ここでは、「いい音を作るために必要なヘッドフォンの性能は何か」っていう話をしています、念のため。
あと、軽いのはやっぱりいい。ヘッドフォンをしていると肩が凝るから、少しでも軽いほうがいい。230gは同クラスの製品の中ではかなり軽いほうなので、ひとつの参考にして下さい。
肩が凝らない人はいくらでも重いのを買ってください。そういや、ドラクエの鉄兜(てつかぶと)って、絶対肩凝ると思うな。
ヘッドフォン 「audio-technica ATH-AD400」 はこちらで購入できます。 [ メーカーWEBサイト ]
ついでにもうひとつ、僕が使ってるイヤフォンを紹介しておく。これは、ミックスダウンのときに音の最終調整をするときのため+ iPod のイヤフォンがイマイチだったのでその代わりにするために買った、 SENNHEISER [ゼンハイザー] MX55VC 。価格は3500円で、iPod についてくる Apple製のイヤフォンとほぼ同じ値段。でも性能はケタ違い。これで音楽を聴き比べたら一発でその違いがわかる。さっき 「フラットな音を出すヘッドフォンがいい」 って書いたけど、当然イヤフォンにも同じことが言えて、この SENNHEISER MX55VC は合格。しかも高得点。しかも安い。
例によって梅田ヨドバシカメラに自分の iPod を持っていって、店頭のサンプルのイヤフォンをガシガシ繋いで、50個くらいのイヤフォンの中から選び抜いたものなので、これは僕が自信を持ってオススメします。
イヤフォン 「SENNHEISER MX55VC」 はこちらで購入できます。
このページで散々音響機材を紹介してて、「んなの買わないし」 って思ってた人にぜひ試してみて欲しい。ほんと、いつも聴いてた音楽がびっくりするくらい変わります。
モニター・スピーカー
次はモニター。僕が使っているのは BEHRINGER TRUTH B2031A 。左右セット (=「ペア」 といいます) で5万円ちょっと。はっきり言ってめちゃくちゃ安い。性能も、この価格なら誰も文句を言えないだろ!ってくらい、僕はいけてると思う。
またもやベリンガーですが(笑)、同レベルのモニターでペアで10万円以上する機種はたくさんあります。
モニターには アクティブ・タイプ と パッシブ・タイプ があって、これはアクティブ。両者の違いは、電源が必要か必要でないか。アクティブ・タイプには電源ケーブルがついていて、自前で電源をとって、その力で音を増幅させて外に出す。ペアなら当然コンセントを2つ使用することになる。一方、パッシブ・タイプには電源が必要ない代わり、音を増幅してくれる機械 (アンプ) が別途必要。家にコンポを持っている人も多いと思うけど、コンポのスピーカーに電源ケーブルがないのを不思議に思ったことはないですか? コンポのスピーカーはパッシブ・タイプなので、アンプ (中央に置く電源ボタンのついたユニット) が電気的に増幅させた音を伝達してもらって音を出してる。だから、コンポのスピーカーは電源ユニットがない分、作りが簡単で軽い。あと、電気屋にパソコン用の小さなスピーカーがたくさん売ってるけど、電源がなくても動くタイプと、電源ケーブルがついてる、もしくは電池が必要なタイプの2種類があるのをご存知なら、それがパッシブとアクティブだ。この場合は、音の最大出力 (最大音量) が後者のほうが圧倒的に大きいから、用途によって買い分ける必要がある。
アクティブとパッシブ、どっちがいいかっていう質問にうまく答えるのは難しいんだけど、最近は比較的買いやすい価格帯のアクティブ・スピーカーがたくさん売っているので、「よくわからないならアクティブ」 で間違いないです。。
パッシブにはアンプとの相性問題があって、両方を同じメーカーで揃えるとか何とかとか、ちょっと面倒な話が出てくる。反面、アクティブにはそれがないから楽。アンプとの相性って何?って感じだと思いますが、そこはスルーして下さい。
モニター・スピーカー 「BEHRINGER TRUTH B2031A」 はこちらで購入できます。 [ メーカーWEBサイト ]
[ ひと休憩 ] 昔話と、身の上話を少し
2007年現在、プロ/アマ問わず、音楽制作の現場にパソコンは欠かせないものになった。僕の記憶では、2000年頃までは録音機材と言えば MTR [マルチ・トラック・レコーダー] で、その頃にはデジタルものも登場していたけど、とにかくそれはパソコンではなく、特殊な録音機能を持った単体の機械だった。ところが、MacがOS9になり、みんながWindows98を卒業し始めた頃、パソコンベースでの音楽制作のトレンドが一気に加速した。
僕が一番はじめにパソコンで音楽を作ったのは2000年で、発売されたばかりの MacG4 + Digital Performer という組み合わせだった。確かCPUが400MHzで、メモリは512MB。それでも当時は「すげえスペックだ!」と周りがみんな驚いていたくらいだし、そのスペックでも12チャンネルのオーディオ・トラックにプラグインをひとつずつかけてもちゃんと全トラックを再生できていた。MTRにかけていた手間が嘘みたいだ、と、いつもぼやきながら、目の前のオーディオトラックの波形が右から左へスムーズに流れていく様にはじめは見とれたものだった。
ノスタルジックになってきましたが・・・ここは細かい解説はナシですので、わかる方だけ、「ウンウン」ってうなずきながら読み進めてください。
さて時代は変わって、2007年。仕事の関係でWindowsを使うことが多くてすっかりMacから遠ざかっていた僕は、悩みに悩んだ末、Windowsで音楽制作をすることを決め、あれこれ調べた結果、それまで一度も使ったことのなかったCubase をシーケンスソフトに選んだ。
いま僕はこうやって音や音楽について偉そうなことを書いているけど、実は2002年の3月から2007年の3月までの丸5年間、音楽制作には一切関わらなかった。音楽ソフトなんて触らなかったし (そもそも持ってなかった)、ピアノも弾かなかった。ライブなんて行った記憶がほとんどないし、CDを買うのも年に数枚という状態だった。つまり、音楽制作どころか、「音楽」 という世界からこれ以上ないくらいに距離を置いていたのだ。言うまでもないけれど、もちろん、僕はその5年間、筋金入りのピアノ難民だった。
そんな僕が久しぶりに音楽をやることを決意したきっかけについては、このサイトの 「はじめての方へ」 のところにちょっろっと書いたけど、 その前置きにはこういう事情があったわけだ。はじめてこのサイトに来てくれた人にイキナリこんな身の上話を書くのはどうだろうと思って書かなかったんだけど、この長~い技術解説をここまで読んでくれる人にはきっと僕の気持ちが伝わるだろうと思って、こんなところに身の上話を書いてみた。
読んでいただいてありがとうございます。
さて。そういうわけで休憩はこのくらいにして、最後のハードウェア 「オーディオ/MIDIインターフェイス」 と 「音楽ソフト」 について解説をしてから、その後はいよいよ次の [ レコーディングについて ] に突入します。
オーディオ/MIDIインターフェイス
写真は巨大だけど、実際の大きさはDVDのパッケージを分厚くしたくらいの大きさ。このページの冒頭の写真でも、コンプの右にちょこんと立てかけてある、とても存在感の薄い機材。
これがどんな仕事をするかっていうと、マイクや楽器の音 (=アナログ) を、パソコンが理解できるデジタルのデータに変換 してくれる。音、つまりオーディオをパソコンに連結 (=インターフェイス) するってわけで、これがないとパソコンでの編集作業がまったくできなくなってしまう、実は非常に重要な機材なのだ。。
それから、同じようにシンセサイザーやエレピなどのMIDIを扱える楽器から、MIDIデータをパソコンに届ける機能もあるので、両方合わせて 「オーディオ/MIDIインターフェイス」 と呼んでいる。
もちろん片方ずつの機能に特化した機材もあります。それぞれオーディオ・インターフェイス、MIDIインターフェイスと呼ばれています。
オーディオ/MIDIインターフェイス 「EDIROL UA-25」 はこちらで購入できます。 [ メーカーWEBサイト ]
価格は22000円くらいで、見た目の割には少し高い気がするけど、家で簡単な音楽制作をやる分には適度なスペック。いずれにしても、これがないと何も始まらないので、オーディオ/MIDIインターフェイスは絶対に必要な機材。
MIDIを使わないのであれば、ただのオーディオインターフェイスを買ってもOKです。
UA-25の特徴は、96kHz/24bit 対応だってことだ。この数値についてはあとで解説するけど、ここでは、 CDよりも遥かに高い品質のデジタルデータを扱える製品だ、ということを押さえておいて欲しい。それから、パソコンとの接続はUSBなんだけど、電源をUSB経由でパソコンからもらう=電源が必要ないので、その辺にごろんと転がしておける手軽さもいいところ。
それから、入出力系統が多いから、ミキサーやマイクなど、たいていの機材をつなぐことができるし、レベルを調整できるツマミも多くて便利だし、何とコンデンサー・マイクのためのファンタム電源まで送れて、しかもリミッターまでついてる(!)っていう、ミキサー要らずの万能インターフェイスUA-25。ノートパソコンを持って出先で何かを録音するなんてときにきっと重宝するはず。
ちなみに、オーディオ/MIDIインターフェイスには、上で説明したコンプのようなややこしいパラメータ設定はほとんどないから、ただ単に、正しい場所に、正しいものを接続すればOK。ただし、ドライバをインストールしたり、音楽ソフト上で使用するデバイスに設定したりと、作業の半分はパソコン上で行うものなので、ハードウェアでありながらソフトウェアの知識も必要だという一風変わったポジションにある機材でもある。
音楽ソフト(シーケンスソフト)
僕が使っている音楽ソフト群。本当に最小限です。
- Cubase SX2.0 (シーケンスソフト)
- The Grand 2 (プラグイン/ピアノ音源)
- Waves (プラグイン/エフェクター)
- Auto Tune (プラグイン/エフェクター)
シーケンスソフトっていうのは、いわゆる音楽ソフト/作曲ソフトのことで、このソフト上で、録音したり、録音したものを再生させたり、MIDIデータを記録したり、音にエフェクトをかけたりして、音楽を作っていく。パソコンで音楽制作をやるときに必ずひとつ必要になるもので、これがないと何も話が始まらない。「シーケンス」 という言葉も古いのかな? と思わなくはないけど、僕はこの表現が一番適切だと思うので使っている。
「音楽ソフト」では範囲が広すぎるし (上に挙げたものは全て広義の音楽ソフト)、「作曲ソフト」 では作曲以外の目的では使わないみたいでおかしいし。
シーケンスソフトはいくつもあるんだけど、他にどんなのがあるかとか、どれを使ったらいいか、という話にはここでは触れない。また、この章では使っているソフトを簡単に紹介するに留めて、 技術解説 【音】 編 ミキシングについて で、実際にそれらを使うときに具体的な設定等を解説する。
僕が使っている Cubase は、数あるシーケンスソフトの中でも (たぶん) 世界シェア1、2を争うような超メジャーソフト。昔は、「Macintoshで音楽をやる = Cubase」 っていうくらいMac寄りだったんだけど、数年前からWindows版に力を入れ始めて、AppleがライバルソフトのLogicと仲良くなってしまったせでますますWindows寄り路線に拍車がかかってきた・・・ような状況みたいです。
僕もそれに巻き込まれたうちの一人だってことですね。
ちなみにCubase の画面はこんな感じ。音トラック(歌、ピアノ、ギター、ドラム、ベース・・・)がタテに並んでいて、時間が進むにつれて画面が右に進んでいく。めちゃくちゃややこしそうな画面に見えるけど、「ピアノ難民を救え!」 ではごく限られた機能しか使わないので、画面はもっとシンプル。何せ歌とピアノしかないので。
シーケンスソフト 「Steinberg Cubase」 はこちらで購入できます。 [ メーカーWEBサイト ]
音楽ソフト(プラグイン)
そのシーケンスソフト上で動き、そのソフトがもともと持っていなかった機能を追加したり、補助したりするソフトのことを 「プラグイン・ソフト」 って言うんだけど、これを活用することで、音楽のクオリティが格段に上がる。プラグインは数万円する高価なものから無料のものまで、それこそ星の数ほど数と種類があるんだけど、僕が使っているのは、一度話に出た 「デジタルで再現した楽器の音データを再生する音源ソフト」 と、音質を調整したり、音に特殊効果を与える 「エフェクター」 と呼ばれるプラグインの2種類に大別できる。音源ソフトのほうは一般的にはプラグインとは呼ばずに、シーケンスソフトとは別の音楽ソフトとして認知されてるけど、シーケンスソフトの中で機能するという意味で、僕はプラグインの範疇だと思っているのでそういう扱いをする。
プラグイン=差し込むという意味。ピンとこない人は、パソコンにフォントを追加する、とか、ウィジェット(ガジェット) を追加するとか、グーグルツールバーを追加するとか、枝切りばさみにアダプターをつけて延長するとか、そういう 「もとの機能を拡張するもの」 的なニュアンスで捉えて下さい。あと、それ単体では何も機能しない、というニュアンスもだいたい正解。
さてその音源ソフトだけど、僕が使っているのは The Grand 2 っていうピアノ専用の音源ソフトで、その品質は世界最高クラスだ。ピアノの88鍵をひとつずつ録音して高品質なデジタルデータにしているんだけど、エレピから出る音なんかと比べるとその差は歴然としてる。それもそのはずで、そのピアノの音データはトータルで1GBを超えていて、単純計算すると、1つの鍵盤の音データが12MB以上あることになる。iPodなんかで通常使われる音声データ (mp3) だと、5分の曲が大体5MBくらいだから、ひとつの鍵盤がポーンって鳴る、たったそれだけのデータが、曲2曲分と同じデータ容量を持っているわけで、The Grand がどのくらいすごいかってのがよくわかる。
いつか、エレピとThe Grand2 の音の比較ってのもやってみようと思っています。
次のページでちゃんと解説するし、前にもちょっと触れたけど、録音をするときには、歌はそのまま生で録音して、それと同時にピアノの演奏はMIDIデータとして記録しておき、あとでピアノの音だけを The Grand に差し替えて、まるでグランドピアノを弾きながら歌ったような状況を作る・・・という方法を取っている。だから、「ピアノ難民を救え!」 の音のクオリティは、この The Grand によって支えられている と言っても過言ではない。
ピアノ音源 「Steinberg The Grand」 はこちらで購入できます。 [ メーカーWEBサイト ]
で、あとは全部エフェクター系のプラグインなんだけど、ここでは AutoTune というプラグインにだけ少し触れておく。これは一言で言えば 「音痴矯正機」。つまり、ボーカルが音を外した部分を機械的に直してくれるのだ。「そんな夢のようなソフトが!?」 ってびっくりする人もいるかもしれないけど、あるんです、これが。「弾き語るには」 のところで 「練習すれば誰でも上手になる」 って書いたけど、それでも 「これ以上はうまく歌えません!」 ってことになったら、しょうがねえな、オートチューンいくか・・・っていう風になる。
え~、別に僕はプロの音楽制作の現場にいるわけではないので、どのくらいの頻度/どういう状況でこの Auto Tune が使われているかってことは知りません。ただ、プロの現場でも使われる品質のものだ、ということは間違いありません。
んで、僕も大して歌がうまいわけではないので、基本的にいつもこの Auto Tune にお世話になっている。でも、「なんやそれ! あの歌はニセモンかいっ!」 っていう反応は間違っていて、実際にやってみればわかるけど、このソフトは決して 「歌をうまくする」 ソフトではなくて、「音を外した部分を少しましにしてくれる」 ソフト っていう程度の認識のほうが正しい。Auto Tune を使っても直らないものは直らないし、下手なものは下手なので、過度の期待は禁物ってわけだ。The Grand は必須だけど、これは 「あったらいい」 くらいのものだってことを断っておきます。